夕刻の静かな暗闇の中、その建物はひっそりとそれでいて堂々と姿を現しました。
ここは池袋にある自由学園明日館。
かの巨匠フランク・ロイド・ライトとその弟子、遠藤新によって設計された建物です。
今宵は学生時代の友人達と、この明日館の講堂で開かれるギター、ヴァイオリン、チェロの演奏会にやって来ました。
もちろん演奏も楽しみなのですが、何よりこの空間で聴くことができるという特別感が今日の催しを更にワクワクとさせてくれます。
大谷石に囲まれた低い天井のエントランスを抜けると、勾配天井が高く吹き抜け、両脇には艶やかな木梁のラインが真っ直ぐに伸びてゆきます。
壁には食堂棟と同じデザインの幾何学模様の窓が連続的に配置され、どこか幻想的で教会のようにも感じるような厳かな空間です。
この講堂は今年で築97年目を迎え、他の中央棟、教室棟と共に国の重要文化財にも指定されているそうです。
ライトは当時、工費を抑えるために高価なステンドグラスを使用するのではなく、木製の桟をガラスに配してあの素敵な幾何学模様を表したそうで、ライトほどの巨匠でも工費を考慮したのかと思うと少し親しみが湧きます。そのような工夫がこの特徴的なデザインに繋がっているのですから、アイデアとデザインがいかに重要なのかと改めて感じます。(会社でも代表の林がいつも言っていることですね。)
実は私がまだ20代の頃、仕事でこの明日館の保存修理工事の図面に携わる機会を頂きました。ゼネコンによる耐震を含めての大きな補修工事のプロジェクトで、CAD図面を手伝いながら、まだ駆け出しの私にもこの緻密なデザインの美しさが伝わってきたのを今でも覚えています。
そして私がこの建物に懐かしさを感じた理由が、実はもうひとつあります。
それはまだ私が子供だった頃の特別な思い出で、今日明日館に足を踏み入れた途端にふっと記憶が蘇ってきました。
昔、私の叔母が住んでいた大田区のお家が遠藤新の設計によるものでした。
年代は経っていましたが、その印象的な佇まいは今でもはっきりと心に残っています。
玄関側から見ると平家のようにも見え、まるで木々に隠れているような控えめな印象なのですが、リビングに入ると勾配屋根に沿って天井がお庭へ向かって伸びやかに広がります。南側の大きな窓の外には遠くまで街並み続き、この家が高台に建っていることに気づかされます。
このダイナミックで気持ちの良い空間の変化に見惚れ、その光景は子供ながら私の心に刻まれました。今思えば、その空間構成やディティールは間違いなくライトの教えを引き継いでいたのだと思います。この家が私が建築を目指すひとつのきっかけとなったことは間違いありません。
私はこの家が大好きで、建築の学生になってからは、よく学科の友達も連れて泊まりにも行かせてもらいました。そして私が社会人になる頃、叔母たちは引越し、その後この家は取り壊されてしまったそうです。
静かに流れるアンサンブルを聴いていると、今はもう見ることも出来なくなってしまったあの素敵な空間や、楽しかった家族や親戚の笑い声まで蘇ってくるようでした。
一緒に行った友人達も家族のこと、昔のことなど色々と思い出したと話していました。
演奏会が終わってから外の風に触れ、灯のともったその美しい建物を眺めていると、この温かく懐かしい気持ちは、この場所が感じさせてくれたものだったのだと思わずにはいられませんでした。
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