北欧研修旅行記
ー北欧の暮らしを知る旅ー
今回は2019年5月に訪れたデンマーク研修の様子をシリーズでお伝えします。
私たちが一緒にデンマークの暮らしを学んでいるDFHG(デンマークファミリーハウスグループ)の活動のひとつにデンマーク研修があります。
実際にデンマークの各地を訪れ、私たちが取り扱うメーカーに行き、制作の過程や資材工場を見学をしたり、北欧の住まいや環境への考え方を学んだり、デンマークに暮らす方の家にお邪魔させて頂いたりしてその暮らしを肌で感じてみる機会なのです。
この旅の案内役は(株)スカンジナビアンリビングのMr K,
スカンジナビアンリビングは、デンマークの家具や建材を日本に輸入するに留まらず、デンマーク人の家づくりの考え方、環境への対応など、いつも本物のデンマークの暮らしを熱心に発信しています。
Kさんは幼少期から30代までコペンハーゲンで育ったことでデンマークの事を熟知していて、いつも私達とデンマークの架け橋となってくれています。
今回も彼がこの旅の企画、スケジュール組み、通訳から運転まで全てを引受けてくれました。
この素晴らしい旅を実現させてくださった事に心より感謝しています。
この旅の一番の目的は、本物の北欧の暮らしに触れること。
私たちエムズデザインは、流行りの北欧風の住宅をつくるのではなく、現地の豊かな暮らし方から、自分と家族の時間を大切にすること、自然を大切にすること、自然素材の良さなどを肌で感じ、それをどう皆さんに伝えるか、そして私たちが設計する日本の家に生かせるかを考えたい。
ずっとそんなことを思いながら過ごした、本当に美しいデンマークでの数日をお送りします。
ー コペンハーゲン出発〜
ビルン空港に到着 ー
ミラノでの仕事を終え、マルペンサ空港へ向かった林と私はまずデンマーク、コペンハーゲン入りをし、そのままスカンジナビアン航空の可愛い小型プロペラ機に乗り換え、西部ユトランド半島の中心にあるビルン空港へと向かいました。
ビルンでは飛行機から降り立った瞬間冷たい雨と強風に迎えられ、5月末なのに震えるような寒さ。とうとう北欧に来たのだと肌で実感するような気温でした。
空港はとても小さく、出口を出ても滑走路の横を歩いているような感じで、強い雨風なのか飛び立っていく飛行機のしぶきなのかわからない風雨の中、誰も歩いていない道をとぼとぼとホテルに向かいました。
曇り空のコペンハーゲン空港 ON Board
ビルン到着 初日はあいにくの雨模様
この日の宿は空港のすぐ側にある、Zleep Hotel Billund〈ズリープホテル ビルン〉
こちらはバジェットホテルで、日本でいうビジネスホテルのような感じなのですが、すっきりとモダンなデザインで、さすがはデンマークという印象です。
まずは、このホテルでデンマークファミリーグループ(DFG)のメンバーと落ち合いました。
ロビーでMr Kや他のメンバーとも挨拶を交わした後、それぞれのお部屋に案内されました。
清潔感のある私のお部屋には、小さいデスクとロフトベットが備え付けてあるツイン
ルーム。
そのデスクに座り窓から雨に濡れる木々を眺めてみたら、まるで異国の学生寮に暮らす留学生のような気分になりました。
ホテルからビルン空港が見えます
黒い木製の窓、窓下にはパネルヒーター、小さな照明、オーク色、バランスが美しい
ーデンマークのレンガ工場へー
昨夜の暴風から一夜明けた早朝、雲の隙間からちょっとだけ青空も見えたのですが相変わらずの曇り。
私たちは朝食後ホテルを後にし、南へ1時間半ほどの港町にあるレンガ工場を目指しました。
途中、車窓を飾るのは美しいデンマークの田舎の風景。
緩やかな丘陵が流れ、それが延々と続き、時に大地に一面、菜の花が黄色く色を付けます。
また風に揺らめく緑の麦はキラキラと白く光る様がとても美しく、ずっと眺めていたくなる景色です。そう、それはまるで絵本の世界のよう。
広い緑の丘に時々、可愛らしい三角屋根のレンガの家がぽつんぽつんと。
そしてどこを見渡しても美しいと感じるのは、プラスチックの製品や興醒めな看板が見当たらないからなのかもしれません。
途中、雲は流れ、風が抜けていきます
しばらくすると、広々とした丘陵から段々と水辺の景色に変わってきました。
デンマーク南部、ドイツとの国境付近のイーアンソンという街に到着したのです。
Egernsund Bridge(イーアンソン橋)を渡ると、入江の向かい岸に赤い三角屋根の家が並び、なんとも可愛らしい風景が広がります。
静かな水面にはボートが並び、自らを誇るようにデンマークの赤い国旗がはためいています。
絵葉書のようなこの港の美しさに私は何枚も写真を撮りました。
絵はがきじゃないですよ!私が撮りました!
この街の歴史のあるレンガ工場、Egernsund Tegl〈イーアンソン・タイル社〉はこの埠頭の目の前にありました。
オフィスの前ではスタッフの方が迎えてくれて、まずは商品説明を聞きました。
この写真で質感までを伝えられないのが残念に思うほどその質感は素敵で、私たちエムズデザインが発信し続けている”本物を使ってほしい”というコンセプト通りのもの。
私たちがこのレンガを使うとき、同じ色でも一つ一つ微妙に色柄が違うことを考え、それに見合った貼り方をする、そして目地の材料、幅、深さまでをこだわりデザインしています。
外部に陳列させ、劣化度をも見られるサンプル
そして裏側にある土の採掘場へ。
そこには広大な土の山が広がっており、採れたて?の土を大きなベルトコンベアで工場内に運び入れていきます。
ベテランのスタッフが「この土はとても柔らかく質の高いものなのだ」と説明しながら、そのキメの細かい粘土質の土を触らせてくれました。
なんとなく懐かしい触り心地がしました。
粘土状の土を形成してレンガの状態にするまでを順に見学していきます。
味わいのある形のレンガが次々と工場内を流れてゆきます。
成形したレンガはゆっくり乾燥させた後、1000度を超える高温の窯で5日間かけてじっくりと焼き上げます。
職人さんのお話によると、レンガの色は元々の土の色と焼く回数で決まるそうです。
それも一度焼いた場合と二度や焼いた場合で色が変化するとか。
どれも素敵ですが、年配の方には赤や黄色、若い方にはグレーのレンガが人気なのだそう。
黄昏の林…
触りたくてしょうがない林…
チョコレートが食べたくなった私…
スタッフの方はどの方もレンガ造りに誇りを持っていて、味のある色合いにするための微妙な配合や、レンガの面の押さえ方など詳しく丁寧に話してくれました。
デンマーク語の説明でも職人気質なのがひしひしと伝わってきました。
デンマークのレンガは、土の質や色合いの良さはもちろん、厳しい検査を行ってから輸出しているため、レンガ自体も高品質で、長年雨風にさらされてもにも変わらない質感を保てるのです。
そのため需要が高く、日本だけでなく、ヨーロッパやオーストラリアなど世界中に輸出をしているそうです。
日本で見かけるレンガ貼りやタイル貼りの家は、どこか製品的で画一的な印象に感じることも多いのですが、Egernsund Teglのレンガは本当に温かみがあり、その奥深い色合いと質感は建物に重厚感と深みを与えてくれるので、私たちが好んで外壁や内壁、外構周りなどに使用する理由です。
レンガ工場を後にしてから気づいたのですが、デンマークの建物は本当にどれもがレンガで造られているということ。
住宅はもちろん、中規模のビルなども皆レンガ造りです。
デンマークでのレンガの歴史は古く、800年前にもさかのぼるそうです。
古くなるほどに味わい深くなり、また塗り直すこともできる。
レンガはデンマークの建物の強さと美しさの象徴なのかもしれません。
熟練という言葉そのものの職人さん
モデルの二人…ではありません
各国を美しく彩る出荷待ちのレンガ
レンガ会社の前にはこんな風景が広がります
ー SONDERBORG KOKKENET
〈ソネボーキッチン〉へ ー
レンガ工場を後にして、次に向かったのは更に西の町、ソネボー。
こちらにはSONDERBORG KOKKENET〈ソネボーキッチン社〉というキッチンメーカーのオフィスと工房があります。
キッチンメーカーといっても、日本のような大々的な会社ではなく、ひとつひとつ心を込めて造っている家具屋さんのようなイメージです。
私たちが到着すると、社長さんと設計のスタッフの女性が温かい笑顔とハグで迎えてくれました。
まずは、併設されたショールームの中から案内してもらいました。
ソネボーキッチンデザインセンター・会社、ショールーム、ファクトリーのすべてがここ
私好みです
飾りすぎない北欧らしいショールーム
ソネボーのキッチンはほぼ全てがオーダーキッチンで、日本のように既製品の寸法から選ぶものはありません。
まずデザインの方向性をいくつかの選択肢から決定し、その上で可能な寸法とデザインを併せながら考えます。
私たちエムズデザインでも、日本の既製品キッチンを使うことが多くありますが、それでも細やかな部分を既製品サイズではなく、部分オーダーすることで、とても使いやすく、かつ美しいキッチンに仕上げることをしています。
そしてソネボーキッチンは、仕上がり感もどれを見ても上質で洗練された家具のようなデザインです。
変に高級過ぎず、そうかと言って上質感はたっぷりあって、なおかつ各部分の繊細なディテールと素材が全体を美しくしていると感じます。
日本ではキッチンは設備機器と捉えられやすいのですが、実際はリビングダイニングに隣接することが多いので、機能性と共に、インテリアに馴染むようなデザインや質感であることはとても大切なことだと思います。
私たちはその上で、それを使う奥さまやご主人の気分が盛り上がるようなデザインを設計しているので、このような学習はとても参考になります。
天然石の天板、IHヒーターとガスコンロの併用+BBQグリル あなたは何をつくります?
キッチンだけでなく、窓、通路の幅、奥行き感 = 豊かな暮らしをつくります
次は、ソネボー社の社長さん自らの案内で裏の工房を見学させて頂きました。
扉材や天板だけでなく、取っ手や金物までを厳選し、一つ一つ丁寧に作っている様子が伺えました。
職人さんの動き方が目に浮かぶファクトリーでした
日本にはあまりないコーナーのデザイン 素敵です
林が好きなブラス製の引き手 *ブラス=真鍮
形状は良くありますが、チークの模様と納め方がとても美しかった
一通り見学をしたあと、奥のミーティングルームへ案内されると、そこにはなんと素敵なランチが用意されていました。\(^o^)/
今回、色々な企業や個人を訪れたのですが、その際どこに行ってもお茶やランチのおもてなしを受けました。
むこうではビジネスでの集まりでも、そのような場を用意するのが普通なのだそう。つかの間ですが本物のHYGGEヒュッゲですね。
食事やお茶菓子を頂きながらミーティングをすれば、自然と場が和み、良いお仕事につながりそうです。
あなたはどれを選びますか? 私はもちろんキャビアのです!
用意いただいたのはスモーブローという具沢山のオープンサンド。
薄切りのライ麦パンなどの上に、スモークサーモンやエビ、ハム、魚のフライ、クリームチーズや野菜など、様々なカラフルな食材が乗っています。
今回の旅では、色々な所でこのスモーブローを頂きました。デンマークでは国民的な郷土料理で、日本で言うおにぎりのようなものでしょうか。
どれもとても美味しく、バリエーションも沢山あるので、あれもこれも食べたくなってしまいます。いや、食べました。
皆でこのスモーブローを頂きながら、にこやかにランチミーティングを行いました。
自己紹介で林は弊社の取り組みや考え方を交えて私たちの北欧ブランドであるMODER(モア)についてを熱弁!デンマークに敬意を込めて、この機会に感謝を込めてお話できました。
話しは進み、ソネボーキッチン社の考え方や哲学、そして商品であるキッチンの詳細、制作方法から扉の面材や取手など、ひとつひとつ説明を受けながら、そのサンプルも見せてもらいます。そして日本での設計方法や納期など詳しく伺います。
日本ではどうしても、既製品カタログから選ぶ、という行為になりがちですが、エムズデザインの完全注文住宅設計には、こういった企業とのコラボレーションが一番しっくり来ます。
ものづくりに特化して、その労を惜しまず届けたい、
金額は少しあがってしまうかもしれないけど、結果的に、その人に合う家ができあがる。
そんなお話が飛び交うミーティングでした。
英語と宇宙語で熱弁する林
そして私はデザイナーの女性にデンマークの働き方についても伺いました。
エムズデザインには女性スタッフが多く、子育ても終盤に近づいた主婦から、新卒採用した若いピチピチ女子まで、(死語?)
そして私もそうですが、子供がまだ学生で、夫や親家族との時間を大切に考えて仕事をしている仲間が多くいます。
彼女にもまだ小さい子供がいらっしゃるようで、なるべく朝早くから仕事を始めて、16時には家に帰るのだそう。
デンマークの方は皆勤勉ですが、決して残業などて家族の時間を犠牲になどはしないそうです。
日々効率良く働き、しっかりと結果を出し、早目に家に帰ってプライベートの時間を家族としっかり楽しむ。ついつい、夜遅くまで仕事をしてしまう私には見習う所ばかりでした。
笑顔が似ていませんか?
美味しくて楽しかったランチミーティングを終えてショールームの裏側に回ると、そこには可愛らしいお花畑が広がっていました。
キッチンの美しさもさることながら、なんて素敵な環境なのでしょうか…
この景色は裏に続くオフィスの大きな窓からも眺めることができました。
デンマークでは、本当にどこに行ってもこのような日本では考えられないような美しい景色が日常に溶け込んでいます。
仕事をしながら、鳥の声を聞いたり、自然の緑を眺めたり、これが豊かな暮らしにつながっているのですね。
そして次は、ソネボーの社長さんの計らいで、つい先日実際にソネボーのキッチンを入れてリフォームされたお宅を見せていただけることになりました。
皆で支度を済ませ、いざ車で移動しようとした瞬間、林が居ません!
ふと前を見ると、ここまで乗ってきたクルマではなく、違うクルマに乗り込んでいるではありませんか。
なんと、
先ほどのミーティングですっかり打ち解けた林は一人でいつの間にかソネボーの社長さんの車に乗りこんでいます。
これには本当にビックリしましたが、とても林らしい行動です!
車中、そんなに長くないドライブでしたが社長さん同士、2人で色々なお話をしたそうですよ。
車を降りるとそこには古いレンガ造りの重厚な外観のお家がどっしりと構えていました。
聞くと、築200年だとか!
これ、普通の人のおうち?と思うような建物が並ぶ街
趣のある扉や階段を抜けると、近代的なバスルームとキッチンが並びます。
向こうの家は、家自体はしっかりと造り、何代にも渡って改修を重ねながら住み継いでいきます。
古い建物もきちんとメンテナンスをすれば、建物の価値が上がり、売却の際なども新築同様、もしくはそれ以上の値がつく事もあるそうです。
もちろん地震が少ないという事もありますが、新築の時が一番価値が高いという日本の住宅の考え方とは全く違います。
お目当てのキッチンは三列並び。
まるでお料理教室のように広々したキッチンです。この大きさは日本ではなかなか難しそうですね。
広々とした玄関 (まだリフォーム中だそうです)
広く明るくてシンプルなキッチン
BateRoomにはシャンデリア
二つのステキな灯りの下に並ぶ美味しそうなディナーをご想像ください
広いダイニングの壁で発見した物は、なんと200年前のセントラルヒーティングの温水ラジエーター。表面に綺麗な彫りのデザインが施されていて、見るからに優雅です。
こちらは代々受け継がれてきた物で、今も現役でちゃんと使っていてしっかり暖まると。
ラジエーターは仕組みが単純なので、繋ぐ熱源機さえ新しくすれば、ラジエーター自体は半永久的に使えるそうです。
他にも所々にこの家の歴史を感じさせるような箇所と最新の設備が同居していて、それが何とも新鮮な印象でした。
大型ヒーターがインテリアにマッチします
彫刻入りには驚きました!
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今日はここまでになります
皆さまいかがでしたでしょうか。
この後は、この日を締めくくるにふさわしいデンマークのお住まいをご紹介します。
オーナーはスカンジナビアンリビング社長のヘンリック。
彼の自邸は彼のお父様が建てられたそう。
そして次に今日の宿へ、その街の小さなホテル&レストラン。
観光では絶対に行くことができない大切な経験をすることができました。
では次回もお楽しみに〜
牛さんバイバーイ
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