実家の解体工事が始まったとき、
親父は自分の思い出を切り取るべく、壊されていく家へしきりにシャッターを押していた。
ぼくが生まれる前に暮らしていたころの思い出、ぼくたち子供と暮らした時間、
きっと親父はぼくたち家族を育ててくれたこの家へ、感謝の数だけシャッターを押したかったに違いない。
若かったぼくは、そのファインダーをのぞく親父のうしろ姿に、いつかの自分を重ね合わせて見ていた。
いつしかぼくは設計士になり、
この風景をたくさん目にすることになっていった。
お客さまの家で解体工事が始まると必ず思い出すこの光景。
お客さまは皆、同じ思いで今まで自分を育ててくれたこの家にお礼を言っているのだろう。
ぼくは忘れない。
あのとき父が見たファインダー越しの風景には、僕たち家族の笑顔が溢れていただろうと。
ぼくは一生忘れずに生きる。
お客さまにも皆、この素晴らしいモノクロームの思い出があることを。
そして皆、同じ思いなのを。
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