お掃除がままならない洗面台、
壊れかけているドアノブ、
この部屋は見ないで〜!と叫びながら、そっと扉を開けてくださるお施主さま。
様々な言い訳をしてくださるけど、ぼくに見えるものは、ここが経過した美しい時間。
痛みきった部分には、愛着が、
物置と化してしまった部屋には、感謝が、
ぼくから見れば、その場所すべてが輝いて見えてくる。
汚れていたり、壊れていたり、片付けがしきれなかったその場所へ、『ここで今まで頑張ってきたんだ、えらいよ!』と、そこまでの時間を褒めてあげたい、大切な歴史へ敬意を表したい。
『安心して、もう大丈夫。』
ぼくはお客さまとその家に向かって心の中で声をかけ一眼レフのシャッターを切る。
五尺三寸二分五厘、
ぼくらは寸分の狂いなく測(と)りたいと思っている。
それが、この家の歴史へのリスペクト。
その場所でのイメージするのはとても大切で、次々と出てくるアイデアを口にし、その場でどんどんパースにしていく。
場の持つ空気感、風の流れ、太陽の位置、音、匂いまでをも掴みたいからね。
こうして得させてもらった数十枚におよぶ現地写真と、きっちり採寸した図面、イメージパースなど、たくさんの大切な情報をお土産に、次は設計チーム全員でデザインミーティングをおこなうことになる。
図面を描くとき、目を瞑れば、スーッとあのときの空気が表れ途端にトリップできる。
すると、するりと自然に手が動く。
モーツァルトのように、頭の中で鳴っている楽曲をスラスラと五線譜に描いていくように、、、とはいかないけど、あの日、お客さまが照れ笑いされたときのお顔、窓からの風のながれ、空気、歴史、、、そのすべてを取り入れて創り上げたプレゼンからは、オーラのような、見えない何かが感じられたら嬉しい。
それはそれはとても烏滸がましいが、今までの生活とは全く違った世界を魅せてあげられたら、それはそれはぼくらの本望かもしれない。
そしてもし、あなたがその世界に身を置くことを決めてくださったなら、、、
ぼくらはいつもそんな夢を追いかけている。