住宅設計をやっている建築士なら、自分の家を自分でつくったことがあるかがとても大切に思う。
可能な限りどんな方法でもいいから、自分の家を自分で建築設計するのだ。
そうすることでしか出会えない課題があり、自邸でしか気づけない問題がわかる。
そして、自邸の建築費用を自分が支払うことでしか知ることができない大きな感情があると思っている。
ぼくはおかげさまで自分で自宅を新築することができた。
多くの人たちと同様、予算もあったし、住宅ローンも組んだ。
その前には、実家の寺の大規模修繕工事をし、ぼくの代でお稲荷様も建造し直し、実家リフォームもわずかながらすることができた。
このようなことをする前と後では、仕事への考え方が正直とてつもなく違った。
自宅建築では様々な実験を行った。
それは自邸でしかできないテストや、今までやってみたかったけど、行う機会がなかった仕様、使うことのなかった材料などを、試行錯誤しながら行った。
カッコつける言い方かもしれないが、従事者の特権を得られる代わりに、自ら自邸をサンプルにする。
人サマの家でできないこと、やったことないことの試験体にした。
エムズデザインでは、やったことのない方法や、使ったことのない材料などを使用するときに一定の決まり事を設けている。
それはもちろんお客さまの家で行うのではなく、メーカーが持ってきてくれた新製品などはテストをさせてもらい、まあ正直最初は疑ってかかるようにしている。
ある程度、時間経過等の察しがつくようなものであれば、お客さまにお断りしてから使用することもあるが、たいがいは試験採用の機を設けたり、テクニカルデータなどを徹底的に調べたりしている。
正直ぼくはビビりだから、石橋を叩いて渡らないことも多いし、調べるのが好きだから、自分が満足するまで調べたりしている。
そんなを知ってか知らずか、
ウチの売りの一つとして、同業者からのご依頼がとても多い。(あ、これ自慢ですm(_ _)m)
多いというか、常時数件は同時進行しているくらい、めっちゃ多い。
建築士からのご依頼、役所の建築指導課にお勤めなさっている一級建築士の方や、大手ハウスメーカーご勤務、住宅資材メーカーご勤務、他、建築関係のプロが様々。
そのたびにぼくは感じる。
どこを見てくれているのか?何を感じてくれているのか?
とてもありがたいし、とにかく自信になる。
だからこちらも専門用語で話す。とても楽だし安心。
仕様や価格についてもちゃんと理解してくださるし、なによりプロ目線で見て我々を選んでくれることが嬉しい。
ようは、正直は正解なのだ。
ぼくはお客さまに以前からこんな言い方をしている。
「医師が、大切な仲間の医師を治療するのと同じ方法で治療する、
建築士が、大切な仲間の建築士の家をつくるのと同じ方法で設計する、
私はそのように、あなたの大切な家をつくります。」
ようは、行動にも感情にも”表裏”が無いんだ、ということ。
どんなときも自分ができるだけのことを全うするだけ。
しかしそこには、その建築士にどんな経験があるのか?どんな仕事をしてきたのか?
そしてそれが、大切な身銭を切って得た経験なのか?が大きく現れてしまうのだ。
あなたが他人さまに導いてることは、自分のカネを使って得た経験なのか!?ということ。
身銭を切らなければ、それは机上の空論、とまでは言わないが、知識を持っているつもりだけど、それが本当なのかを確かめたことがないのと一緒なこともあると思う。
まあ厳しいようだがこれは事実じゃないだろうか。
ぼくはカルパッチョをつくるのに、スーパーでパックに入った切り身しか使ったことがないから、お魚のさばき方はおろか、肝心な小骨の抜き方さえも解らない。
毛抜きみたいなもので一本一本抜いていくのは見たことあるけど、その小骨がどこにあるのか?どっち向きに引き抜けば良いのか?
Youtube で見て勉強しても、自分でやってみて、そして食べてみなければわからないのではないか。
そんなことを大声で言っているウチの会社では、強制ではないが、スタッフが自宅を考えるとき、なるべくなら自分で設計することを推奨している。
なぜなら、そうゆうことだから。
住宅の設計の仕事をしている建築士が、自らの自邸を建築すること、
それは一番成長できることだし、これから将来、自分の仕事にこれ以上の学びは無いと思っている。
だからできれば、どんな形でも良い、自分で自分の家をつくるのだ。
我々は偶然このような仕事をしているからそんなことを言えるのも確かだ。
でもぼくは普段からほとんどの事に対してこんな選び方をしてしまう。
・レストランに行くなら、シェフの顔が見える店が好き。
得意な料理は何か?その料理の意図、食材の選択、
その上で、トレーサビリティがわかると更に期待しちゃう。
・車を買うとき、スタイルはもちろん、それ以上に、性能や開発技術がとても気になってしまう。
グレードがある場合、開発時にどれがメイングレードなのか?こだわりポイントはどこなのか?
だから営業マンでなく、できれば設計士や、整備メカニックと話しをしてから決めたい。
・本を選ぶときも同じ。
誰かが既に言っているかどうかを確かめたい。
オリジナルの書物には本物だけが持つ魂が宿っている感じがするから。
ようは、上辺だけが嫌いなのだ。
見た目だけ良ければいいが大嫌いなのだ。
何かのマネが全く無いというのは難しいし、ぼくもマネから入った。
こんな偉そうなことを言ってもぼくなどまだまだ道半ば、五十五歳の若造、アブアブかピヨピヨか、半ぺらも甚だしい。
しかしそこにオリジナリティや学び、経験があるのかが知りたい。
正直、今は上辺だけのモノの方が多いのも事実だろう。
腹を満たせればいい食事もたまには良いだろう、
着られればいい服、乗れればいい車、住めればいい家、
そんなものが多い日本でも、時折キラリと輝きを放つ本当に優れたものがある。
圧倒的に数が少ないけど、なんとなく気品があり美しさが現れているステキな家は確かにある。
決して奇抜でなく、逆にお淑やかだったり、なんとなく力強さが表れてたり、建築士の愛や思いやりが感じられる家があるのだ。よくわからないけど、そこに馴染む、あなただけが馴染む家があるのだ。
そんな家をぼくはつくりたい。
昔、過去に家づくりをご経験したことのあるお客さまが、その時の担当者にこのように聞いてみたと私に教えてくれました。
「あなたは自分の家を、ご自分で建てた事がありますか?
あなたはご自分で建てた家に住んでいますか?」と。
自分の家づくりで失敗したことを、お客様の家で二度と繰り返してはならない。
自分の家で成功したことを、自信を持って案内する。
これが我々に求められていること。
物事は、逆の立場に立てばすべて教えてくれる気がする。
相手の立場になって考えればすべて教えてくれる。
これがぼくの考え。